講演
「暗号と解読」
吉国 宏氏(技術士会会員:機械)
平成12年9月13日 (水) 18時〜20時 電気技術開発(株)JRビル会議室 出席者15名
講師は、旧陸軍の航空情報隊員として訓練を受け、傍受通信所に勤務した。米軍は
いかにして日本軍の暗号を解読したのかについて関心をもち続けた。まず、わが国
と ヨ-ロッパの暗号の歴史について両者の特徴を述べ、よく研究され多くの資料が
残されている海軍暗号書D(以下D暗号という)について以下のように解説した。
1) 5数字組成の暗語、組立用暗号書、翻訳用暗号書、乱数表、乱数開始符の秘匿法、
特定地点略号表、暦日換字表などからなる暗号アルゴリズム、および乱数更新、暗号
使用の経緯などD暗号の特徴。
2) 理論的に再現不可能な真正乱数を用い、最も暗号
強度が高いとされていたD暗号の攻略は、「未知の暗号書で換字し、さらに乱数を
加減算した暗号系のなかに相当量の乱数重複がある場合、それは解読できるか」を
宿題としたハワイ戦闘情報班が中心であった。傍受した多数の電報から乱数開始符
の秘匿法を暴き、乱数重複状況を明らかにして暗号文の換字の状態が同一になるよ
うに重ね合わせる、ついで重なり合った暗号文相互のずれを判断し、暗号文に使用
した数字の基本使用度数曲線を作り、これをずれと一致させることによって乱数を
判断し、乱数を取り除き1次暗号分に変えていった。これらは膨大な作業のうちに
試行錯誤の繰り返しと、折から登場してきたコンピュ−タとソ−タ−の利用によっ
て行われた。D暗号の使用開始時から解読にかかり、1年半後のミッドウエイ海戦の
頃には暗号文の10%程度が分かるようになっていた。10%の解読によって、
作戦内容の90%を推論できた、とニミッツ提督は述べている。
3) ミッドウエイ
島の名称を秘匿した特定地点略号AFを確かめるために、米軍は謀略を考えて偽電を
発し、日本海軍通信所はまんまとこれにひっかかった、キスカ島の撤収作戦の成功
は乱数を更新した直後であり、米軍はまったくこの作戦情報を補足できなかった、
など伝えられるエピソ−ド。
ITにおける電子商取引の暗号化は欠かせない。パソコンのファイルの暗号化ソフト
ウエアに関心が集まっている。攻撃に対して安全性がより高い暗号アルゴリズムが
の開発が盛んである。現代暗号でも意思伝達の秘匿法とこれを暴露する暗号攻撃法
の競合が繰り広げられている。