講演  「静電気とコンピュータの誤動作」
                           (インパルス物理研究所長) 本田昌実氏

平成11年3月1日(月)18時から20時、電気技術開発(株)、出席者18名。

 乾燥期には金属物体に静電気が帯電する。大地と絶縁されている、または周囲の物体から孤立している金属物体は、摩擦、他の帯電物体との接触、静電誘導等により容易に帯電する。ワークステーション(EWS)の操作時に、帯電した椅子から人が急に立ち上がると誘導される静電気は約3kVにもなる。また、帯電金属物体と非帯電金属物体が接近・衝突すると静電気放電(ESD)が発生する。この現象が生じた瞬間EWSには重大なトラブル、すなわち画面消え、キーボードハング(入力不能)、パワーオンクリア(強制初期化)、プログラム/データ破壊等の症状が現れる。

 これらの現象は、帯電した人体が触れたことで発生するとみる従来の電磁気学的知見からは説明できない。事実はEWSから離れた金属物体間で発生する間接的なESDの方がシステムに対する直撃的なESDよりもはるかに強く、接近速度の大小は電磁干渉(EMI)作用を決定的に左右する。間接ESDによるEMI作用は、帯電体の有する静電(気)エネルギーに比例しないという事実が現場の経験と実験から判明した。

 種々の検討を行った結果、この間接ESDによるEMIの威力、すなわちWARP(Working Amplitude-Rate of change Product)を次のように表せば、現場のトラブル状況と実験結果をうまく説明できる。

    WARP=V × (di/dt) × K

ここで、V=金属物体の帯電電圧[V]、di/dt=放電電流の変化率[A/s]およびK=有効断面係数、である。 つまり、システムに対する間接ESDのEMI作用の大きさ(WARP値)は帯電電圧と放電電流の速さに比例し、EWSの信号線による受信アンテナ能力が高まるほど強まる。このような説明を実験装置を利用して実証的に検証され、極めて説得性があった。
                                       (文責:小滝國雄)

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